新生児聴覚スクリーニング
先日、新聞に驚くべき記事が…。
その前に新生児聴覚スクリーニングについて少し。
生まれつき難聴を持って生まれてくる赤ちゃんは、1000人に1人くらいの割合でいるそうです。
以前は2~3才くらいになった時にこの子はもしかしたら聞こえていないのでは?とやっと難聴に気付くということが多かったようで。
そこから、聴覚支援などを行って言葉を獲得するとなると、なかなか大変で本人や周囲の方々も苦労が多く。
ところが0才からトレーニングを行うと、言語獲得がわりとスムーズに進むそうです。
難聴の早期発見のために行われているのが新生児聴覚スクリーニング。
通常は生まれて数日後に入院先の病院で行います。生まれた病院で検査が出来ない場合は、退院後に別な病院で行いますが、現在は90%以上の産院で検査が行われているようです。
そこで再検査が必要と判断された場合は、耳鼻科などの専門医で再検査を行います。産院で再検査が必要という結果が出ても、最終的には何も問題はなかったということも多いようです。
現在は、この検査に対する公的補助を行っている自治体は少なく、希望されれば検査を行いますよというのが現状で、検査を受ける新生児の割合は60~70%程度。
全国一律に公的補助がされるようになると、義務化と同じような状況が作れるので、全ての新生児が検査を受けられるように、厚生労働省が動いているところだそうです。
前置きが長くなりましたが、私が驚いた記事は。
難聴と判断された乳児の保護者は、専門の方と相談し、人工内耳・補聴器など、聴覚支援を受ける方向で話しをして、子供が言葉を獲得していけるように動いていく。と、私は思っていたのですが…。
ところが、40%以上の自治体で、支援が必要と判断された子供や保護者に対して、支援出来る体制が整っていないということ。
何のための新生児聴覚スクリーニングなのか、早期発見出来ても対処しなければ全く意味がありません。こういう問題にこそ国が強い力を持って、各自治体に行動を起こさせる必要があるのではないでしょうか。
難聴カミングアウト
難しい問題ですが…。
あるお客様(Aさん)は補聴器を装用し始めて1年。少し大きい音は苦手で、補聴器を装用してもよく聞こえるというところまで調整することが難しく、時間をかけてトレーニングしていくしか…。
Aさんが今最も楽しみとしているのがあるサークルの活動。
ただ少し前から、先生が皆に向かって話す声が聞き取れない、サークルが終わって仲間とお茶や食事をしている時のおしゃべりが…。
苦しい思いをかかえたまま続けていました。
Aさんは、自分が補聴器をしていることを皆に知られたくなく、ずっと話さずに活動を続けていました。
私は、皆に話せばもっと楽になると思ってはいましたが、AさんはAさんなりの考えがあって話さずにいます。
そんなAさんが先日、サークルをやめようと思っていると、暗い表情で店に入ってこられました。
私は、多少聞こえづらかったとしても、先生や仲間に話して配慮してもらえれば、活動は続けられるし、やめる必要はないのではと話しました。
Aさんは、配慮してもらうのは皆の迷惑になると考えているようで…。
ただ、やめる理由として自分が補聴器をしていることを先生に話す決意はされていましたので、私は先生が、「そんなことでやめる必要はない。」そう言ってくれることを期待していました。
すると後日Aさんから電話があり、補聴器をしていることを先生に話して、サークル活動は続けることにしましたと、これまでにないくらいの明るい声で。
私はこれからも、Aさんの聞こえが少しでも改善するよう、Aさんと共に頑張っていくだけです。
JSpeech( JV2T )
耳のきこえに不便を感じている方々のために、
最近はいろいろと便利なものが開発されていますので、紹介させていただきます。
今回は『 J Speech( JV2T )』。
聴覚障害者と聴者がパソコンやスマートホン・タブレットを使用してコミュニケーションを行うために自立コムが提供しているソフトです。
パソコンやAndroidでは JSpeech を、iOSでは JV2T のソフトを使用しますが、Androidには、Text Hear Personal Hearing Aidという専用アプリも用意されています。
対面で会話する場合に、音声を文字化してコミュニケーションを助けるのは当然ですが、もう一つの重要な使用方法があります。
家庭用(あるいは職場でも)の固定電話に、専用機器(自立コムのテレホンテキスト)を接続すると、電話相手の声が文字になってパソコンなどの画面に表示されます。
このテレホンテキストは聴覚障害者用通信装置給付対象品になっています。
人工内耳②
人工内耳について知識不足のために、私は思い違いをしていたことがあります。
それは後迷路性難聴の方についてです。
後迷路性難聴とは、外耳・中耳・内耳に難聴の原因があるのではなく、聴神経や大脳皮質など、内耳より奥に原因のある難聴のことをいいます。
人工内耳はその名の通り内耳の働きを人工的に行うものですから、いくら内耳にしっかりした刺激を与えたとしても、それを伝える神経に障害があれば、きこえの改善はあまり期待出来ないと思っていました。
基本的な考え方としては間違っていないようですが、実際の効果は違っているようで、後迷路性難聴でも多くの方にきこえ改善の効果が表れているそうです。
後迷路性難聴は語音明瞭度が低下します。
つまり、言葉をハッキリ聞き取れないという症状で、補聴器でこれを改善させるのは難しいのですが、人工内耳ではこれが改善した例が多数あるようです。
それから、数年前から便利な機能も使えるようになりました。日本で認可されている人工内耳のメーカーは3社あります。
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コクレア(C社)
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アドバンスト・バイオニクス(A社)
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メドエル(M社)
人工内耳も補聴器と同じように、テレビ音声送信機や外部マイク送信機からの音声を、人工内耳で聞き取ることができます。
C社はリサウンド、A社はフォナックの補聴器に使用するものと同じワイヤレス機器が使用出来ます。(A社は中継器も必要となります。)
M社製のものは専用の中継器を使用すれば、Bluetooth接続した機器の音声を人工内耳で聞き取ることが可能です。
医療技術の進歩や機器の進化で、人工内耳手術を受ける方は年々増加しています。補聴器ではきこえを改善することが難しい方にとっては、非常に大きな選択肢になるのではないでしょうか。
人工内耳①
補聴器販売店として、人工内耳は取り扱ってはいませんが、全く知らないでは…
まず、しくみについて。
①耳介付近に配置したマイクで音を捉え、
②ほぼ同じ位置にあるサウンドプロセッサで解析し、電気信号に変換されます。
③その電気信号が送信コイルで無線信号に変換されて皮膚下に埋め込まれた受信装置に送られますが、送信コイルと受信装置は磁石でくっついています。
最近は、マイク・サウンドプロセッサ・送信コイルが一体化されたものも普及してきています。
受信装置に届いた信号は、
④そこから蝸牛内に通された電極によって、直接蝸牛内の神経を刺激します。
その刺激が神経を通して脳まで伝わり、音として認識されることになります。
手術をすると、その耳は元の聞こえに戻すことはできませんので、手術を行うための人工内耳適応基準が設けられています。
この適応基準は適宜見直しが行われています。現在の基準は、成人に対するものが2017年、小児に対するものが2014年に定められています。
成人成人の基準としては聴力検査で下記の①か②のどちらかに該当しなければなりません。
①裸耳での聴力検査で平均聴力レベル(500Hz、1000Hz、2000Hz) が90dB 以上の重度感音難聴。
②平均聴力レベルが 70dB 以上、90dB 未満で、なおかつ適切な補聴器装用を行った上で、装用下の最高語音明瞭度が 50%以下の高度感音難聴。
それ以外にも、慎重な適応判断が必要なものやその他考慮すべき事項が示されています。
成人人工内耳適応基準(2017)はこちら
小児の適応基準はさらに複雑になっています。
これは、必ずしも自分の意思で決断するわけではないことや、手術後のリハビリが非常に重要になるので、その環境が整っているのかなどが考慮されています。
まず手術を行う前提条件が示されています。
◆小児の人工内耳では、手術前から術後の療育に至るまで、 家族および医療施 設内外の専門職種との一貫した協力体制がとれていること。
また、医療機関における必要事項や療育機関における必要事項も示されています。
その上で適応年齢は原則 1 歳以上(体重 8kg 以上)であることや小児裸耳での聴力検査で平均聴力レベルが 90 dB 以上、その条件が確認できない場合、6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で、装用下の平均聴力レベルが 45dB よりも改善しない場合。
また、その条件も確認できない場合、6カ月以上の最適な補聴器装用を行った上で、装用下の最高語音明瞭度が 50%未満の場合。とされています。
ただ、例外適応条件や禁忌事項なども示されています。
小児人工内耳適応基準(2014)はこちら
この続きは次回また
UDトーク
耳のきこえに不便を感じている方々のために、最近はいろいろと便利なものが開発されていますので、UDトーク紹介させていただきます。
今回は『UDトーク』。
主に聴覚障害者と聴者のコミュニケーションをスマートホンやタブレット・パソコンを使用して行うためのソフトです。
2016年に施行された障害者差別解消法により、役所や病院等でよく目にするようになりました。発せられた音声が文字に変換されて表示されます。
しゃべるこが出来ない場合は、キーボードをたたいて文字を表わすことも出来ますし、キーボードが苦手な方は手書き文字で表すことも可能です。
視覚障害の方には、その文字を読み上げる機能もあります。
1対1の会話であればスマホやタブレットが1台あれば大丈夫ですが、数人の会議で聴覚障害者が何人か含まれるような場面では、一人1台ずつのタブレットを持って同じ画面を見ながら、あるいはそこに文字を打ち込みながら会議を進めます。
講演会のような場合、講師に専用マイクを持ってもらい、タブレットをプロジェクターに接続すると、文字通訳としてスクリーンに文字が表われ、聴覚障害者に講演内容を理解してもらうことが出来ます。
小学校で利用する場合には、何年生で利用するのかを設定しておけば、その学年に合わせた漢字やひらがなに変換されて表示されるということです。
役所や病院、企業、学校などで使用する場合は登録して利用料を払って使用しますが、個人では無料で利用出来ます。
ただ、誤変換防止の制度向上のため、無料で利用したデータは再利用されているようですので、重要なプライバシーに関する内容の場合は、無料での利用は控えたほうが良いと思います。
みえる電話
便利耳のきこえに不便を感じている方々のために、最近はいろいろと便利なものが開発されていますので、紹介させていただきます。
今回は「みえる電話」です。
NTTドコモが2019/3/1から始めたばかりのサ-ビス。
聞こえづらいので電話は苦手という方は多いと思いますが、Android6.0以上のスマホまたは電話機能付きタブレット、iOS11以上のiPhoneで使用することが出来ます。
使い方が大きく2つあります。
まず、聞こえづらいけどしゃべるのは出来るという方。
電話相手の声がスマホの画面に文字で表示され、
こちらは普通にしゃべるだけです。
次に聞こえづらくてしゃべるのも苦手という方。
相手の声はスマホ画面に文字で表示され、こちらの言いたいことも文字入力します。こちらが文字で伝えても、相手が聞こえる方の場合は、相手には音声に変換して伝えてくれます。
ドコモ契約のスマホでみえる電話アプリをダウンロードしてあれば、相手の電話はドコモでなくても、またスマホでなくても、家庭用電話でも会社の電話でもOKです。
送信時でも受信時でも、こちらがみえる電話を使用していることを、音声または文字で最初に自動的に相手に伝えます。
何か注文あるいは予約をしたい時や問い合わせをする場合、最近はインターネットやメールを使用することが増えてはいますが、電話でなければ受け付けてもらえないところが多いのも事実です。
急ぎの用件を電話で連絡しなければならない時などは、これを便利に使うことが出来ると思いますが、音声を文字に変換する場合、周りが騒がしかったり発音が明瞭でないと、正しく変換されないことがあるようですので、注意が必要です。
詳しくお知りになりたい方はこちらをクリック。
聴覚情報処理障害って?
最近、聴覚情報処理障害という言葉をよく聞いたり目にしたりするようになりました。
Auditory Processing Disorder:APDとも呼ばれています。
聴力検査をしても正常、つまりしっかり聞こえているのに言葉を聞き取ることが難しいという障害で、海外のある報告では、およそ7%の人がこれに該当するとしているものがあるようです。
特に次のような症状の特徴が…。
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騒がしい場所では極端に聞き取れない
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長い話を理解することが難しい
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音声で伝えられたことは記憶しづらい
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初めて聞く言葉は聞き取れないことが多い
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聞こえたつもりの言葉を実は聞き間違えていた
原因としては頭部外傷、脳梗塞など、脳の器質的な障害がある場合が一部はあるが、器質的な問題はない場合が多いということです。
幼児期に長期間に渡り中耳炎の症状が続いたことや、睡眠障害なども原因として考えられるようですが、一番多いのが発達障害傾向だそうです。
また、発達障害には該当しなくとも注意力や記憶力など認知的な能力のアンバランは聞き取りに大きな影響を及ぼしているようです。
そして、その聞き取り難いという症状も、それを楽観的に考えられるか、それとも重く受け止め悩んでしまうのかによって、症状の進行具合や聞き取り難さの度合いが変わってくるそうです。
APDは改善させていくのが難しい場合もあるようですが、改善出来ることもあるようです。
まず聞き取る環境を整えることで、理解が大きく向上する場合があります。
一つは、周りを出来るだけ静かな環境にすること。
もう一つは、絵や図やジェチャーで示したり、難しい言葉は文字に書いて示すなど、目で見える情報も使って表すことです。
それから、数人以上の人が集まる場所で、皆が勝手にしゃべるような場合は使用出来ませんが、主な話し手が決まっている場合には、ワイヤレス補聴システムを利用すること。
リサウンドのマルチマイクやフォナックのロジャーのようなシステムです。
テレビやラジオをなんとなく聞くということではなく、しっかり聞くというトレ-ニングを行うことも重要です。
注意力や記憶力など、認知的な能力そのものを向上させ、耳で聞いて理解するという力が鍛えられます。
また、聞いて理解する力を高めるためには、聞く力を鍛えるだけではなく語彙数を増やすことも大切で、単語のある部分がハッキリ聞き取れなかったとしても、推測して聞き取れる幅が広がることになるようで、新聞や本を活用すると良いそうです。
理解そして、もしうまく聞き取れなかったとしても、聞き取れない自分が悪いと考えるのではなく、こんな環境では皆聞き取れていないはずと、自分を責めないようにすることが非常に重要になってくるということです。
耳のきこえがそれほど悪くないにもかかわらず、上手く聞き取れていないと思っている方はぜひ専門機関を受診されることをお勧めします。
認知症と難聴・補聴器
最近、補聴器メーカーから届く販促品(冊子やポスター)に、認知症と難聴の関係に関するものが増えてきました。
これは、厚生労働省が策定した“新オレンジプラン”に大きくかかわっているものだと思います。
新オレンジプランの正式名称は『認知症施策推進総合戦略』といいます。認知症の方々へのサポートについてどのようにしていくのかということと共に、認知症予防をどう進めていくかということについて書かれています。
その中で認知症の危険因子として、加齢、遺伝性のもの、高血圧、糖尿病、喫煙、頭部外傷、以上のものと共に、難聴も挙げられています。
つまり、難聴をそのまま放置しておくと、認知症になる可能性が高くなるということです。
言葉による脳への刺激が減ることが認知症になる可能性を高める直接的原因になることと、聞きにくいことで社会的参加が減少することや、余暇活動の幅が狭まるというなどの間接的原因になるということです。
私も10数年前の補聴器販売時に2度同じようなことがありました。
軽い認知症により会話が時々かみ合わないことがあったりするお客様で、しっかりした聴力測定は行えない状況でしたが、ご家族の希望で補聴器を装用してもらうことになりました。
補聴器の着脱や紛失防止などご家族のサポートは大変だったでしょうが、2~3ヶ月でみるみる顔色や表情が明るくなり、新オレンジプラン①会話がズレてしまうことはほとんどなくなって、聴力測定もしっかり行えるようになりました。
補聴器で聞こえるようになったことが理由で、症状が改善したのかどうかは分かりません。
薬や治療の効果が出てきたのとたまたま時期が重なっただけなのかもしれません。
他にも同じような方に補聴器を使用してもらったことがありましたが、必ずしも上手くいったわけではなく、補聴器を着けてもいやがられたり、家族が見ていないところで外して失くしてしまうこともありました。
聞こえるようになることで、認知症が改善するとまでは言えませんが、聞こえるようになることで、認知症を発症する可能性が低くなることは知られています。
ろう者のバス運転士
松山建也さんは、現在日本でただ一人の“ろう”のバス運転士です。
2016年4月に運転免許制度が改正され、聴覚障害者でも補聴器を装用して、一定基準(10m離れて90dBのクラクション)の音を聞くことが出来れば、二種免許を取得することが出来るようになりました。
二種免許が取れれば、バスやタクシーの運転手として仕事に就くことが出来ます。
観光バスの運転士になるのが夢だった松山さんは、それまで大型免許を持ってトラック運転手として仕事をされていました。
運転免許制度改正によって大型二種免許を取得出来るようにはなりましたが、実際にバスの運転士になるのは簡単なことではなかったようです。
なにしろ、日本にはそれまで“ろう”の運転士は一人もいなかったのですから。
二種免許を取得したろう者はこれまで40人以上いるようですが、実際にその仕事に就いているのはまだ松山さんだけでしょうか。
その松山さんの講演会を、小金井手話サークル主催で2月23日の15~17時で行います。
参加費は無料です。多くの方の参加をお待ちしています。
詳しくは下記のチラシをご覧ください。