補聴器の進化
デジタル補聴器の進化は止まりません。
ただ、音質的にはどのメーカーでも、そのメーカーの考える最高の音質に近づいています。
私が思うには、音質はこれ以上よくなったとしても、人間の耳や脳ではその良さを感じ取れないくらいまで、もうすでにその域に達しているのではと思っています。
聞こえについてもっと進化してほしい箇所といえば、人の声とそれ以外の音を明確に区別すること。
区別が出来れば、声だけを増幅して、それ以外の音は増幅しないようにできます。
つまり、騒がしい場所で会話することが楽になります。
今でも、ある程度はそのようなことが出来てはいますが、その点はまだまだ進化してほしいことです。
ボディスコアそれから何回か前のこのコーナーに書きましたが、脳波をモニターすることによって、その人がいろいろな声や音の中で、何を聞こうとしているか分かるので、聞こうとしている声や音に特化して増幅すること、そういうことが出来るように進化してほしいですが、これからの補聴器の進化の中心となるのは、聞こえというよりは付加価値の方面になるのでしょうか。
そういう意味で今回スターキーからリリースされた、『Livio AI』はこれまでより進化した補聴器といえるでしょう。スマホが必要にはなりますが、スマホと連動させることで出来ることがいくつもあります。
ブレインスコア補聴器の専用アプリを使用して、話された外国語を日本語で聞かせてくれるというもの。
英語・フランス語・スペイン語・中国語など20数か国語に対応しているそうです。
仕組みは、スマホに例えば英語⇒日本語に設定すると、英語でスマホのマイクに向かって話した時、スマホ画面に日本語に翻訳された文字が表れます。
ここまではよくあるスマホの翻訳機能ですが、これを日本語の音声にして補聴器に飛ばすというもの。
有りそうで無かった機能です。
他にも、聞こえとは関係ありませんが…。
「転倒検出通知機能」は、補聴器装用者が転倒した時、スマホに設定された連絡先に、自動で転倒通知を送信するというもの。
高齢者の転倒事故の早期発見につながります。
また、「心拍計測機能」なども備わっていいて、自身の健康状態も確認することが出来るようになっています。
脳波を読み取って音声を聞く補聴器
先日、面白い記事をみつけました。
コロンビア大学の研究者が行っている補聴器の改良です。
元々脳外科手術が必要な患者の中で希望者の脳に電極を埋め込み脳波を調べてみると、脳波の動きが、彼らが耳を傾けようとしている話者の話し方(音声パターン)を反映していると。
補聴器の入力信号を音声ごとに分離して、脳波と同じようなパターンの音声を増幅し、それ以外の音声の増幅を抑えれば、騒音の中でも会話しやすくなるとのこと。
技術的にはそのようなことは可能ですが、ただ、まだ課題は多いようです。
補聴器使用者の脳に電極を埋め込むことは出来ませんので、手術なしで脳波をモニター出来る方法を見つける必要があります。
また、あまり騒音が大きなところでの試験はされていないようで、より騒音が大きく、気の散る要素も増えるような室外環境でも試してみる。
そのようなことが必要なのですが、早ければ、数年後には実用化されるかもしれません。
自転車には外マイク補聴器!
小金井補聴器のお客様の中に自転車競技をされている方がいらっしゃいます。
自転車のロードレースは、100Km程度かあるいはそれ以上の長い区間を交通規制をかけて車をストップさせますので、陸上のマラソンのようにあちこちで頻繁に行われているわけではないようです。
そのお客様はプロの選手ではありませんが、国内のレースはもちろん海外のレースにも参加されています。
補聴器装用経験は短くはありませんが、これまでずっと耳かけ型補聴器を使用されていて、レースの時は風切り音が邪魔になりますので、補聴器は外して参加していたそうです。
自転車レースだけではなく、仲間とのツーリングでも、休憩中などは補聴器があったほうがよいのですが、荷物は出来るだけ少なくしますので、補聴器を持っていくことはあきらめていらっしゃいました。
私はテレビで自転車ロードレースを見たことはありましたが、詳しいことは知らず、話しを聞いて驚いたのですが…。
自転車のレースは個人競技であっても実際に走っている場合は、近くを走っている選手と協力し合って走るそうで、数人(場合によっては数十人)でチームのようになり、先頭を入れ替わりながら出来るだけ風の抵抗を受けなくて済むようにして集団で走るそうです。
平昌オリンピックのスピードスケート女子で金メダルを取った、チームパシュートを思い出していただくと良いですね。
ただ、自転車では同じチームや仲間ではなく、例えばライバル同士であったとしても、ある一定の時間や距離の間では協力し合うようです。
そして、それまで少し離れて走っていたのに、近づいてきたので「しばらく一生に走ろう!」とか、しばらく一緒に走っていたのに、もう体力的についていけなくなった時、「もう自分はムリ、先に行ってくれ」とか、その逆で、集団のスピードが落ちてしまって「今までありがとう、先に行くね!」などという時に、基本的には手の動きなどで合図を送るのですが言葉をかけあうこともけっこうあるということ。
ただ、その方は、自転車に乗っている時に言葉でコミュニケーションを取ることはあきらめていらっしゃいました。
ところが、ホームページで補聴器を紹介しているコーナーで、“外マイク耳あな型は風切り音が気にならない”と私が書いていたのを見つけられて来店いただきました。
補聴器を作製して試聴していただきながらその間にマイクチューブの長さの変更など行い、自転車で走っている時でも話しができるということで、まだ十分使用出来る耳かけ型補聴器をお持ちであるにもかかわらず、外マイク耳あな型補聴器の購入を決めていただきました。
私も、補聴器を着けて扇風機の風をあびたり、風の強い時に外に出て使ったりして効果は体験していましたが、ここまで外マイクのメリットを感じていただいたお客様に、実際にお会いするのは初めてで、ホームページの補聴器紹介の箇所に、わざわざ外マイク補聴器の欄を作って良かったと改めて感じたところです。
テレコイル
先日、大きな失敗をしてお客様にご迷惑をかけてしまいました。
そのお客様にお薦めした補聴器が、お客様にとって必要な機能を満たしていませんでした。
その機能が「テレコイル」。
以前のアナログ耳かけ型補聴器には、全てといっていいくらい付いている機能でした。
現在のデジタル補聴器でも耳かけ型であればほとんど付いている機能です。
小型の補聴器には付いていないのもありますが、今回の補聴器には付いているものと…。
どんな時に使う機能かというと、電話機が黒電話だった時代に、電話で会話する場合に補聴器をT(テレコイル)モードにすると、電話相手の声が良く聞こえました。
黒電話の受話器に内蔵されていた誘導コイルからの漏洩磁束(漏れ出している磁気)に音声の成分があり、その磁束をテレコイルで補聴器に取り込み、音声に変換して聞かせるというものです。
現在の固定電話には漏洩磁束がほとんど無く、テレコイルは役に立たないのですが、一部の携帯電話にはTモードで聞くと聞きやすくなるものがあるようです。
また最近の劇場やホールなどでは、床下にヒアリングループが這わせてあり、ステージ上の声が補聴器のTモードで聞きやすくなるというところがあります。会場全体でという場合もあるでしょうが、指定された一定の座席でテレコイルが使用できる会場もあるようです。
また、もっと小規模の公民館や、福祉会館、市民集会所のようなところでは、携帯用ヒアリングループがロッカーなどに置いてあり、難聴者の集会などで使用できるようにしている施設もあります。
今回のお客様はそのような集会によく参加される方で、ヒアリングループを介して檀上の方の声を、Tモードで聞く機会が多いというのを私は知っていたにもかかわらず、テレコイルが付いていない補聴器を薦めてしまったということになります。
最終的にはテレコイル機能が使えるようにしてお渡しすることができるということが分かったのですが、反省しなければならない応対でした。
自動ボリュームアップ機能Ⅱ
③スターキー(経験管理)
最初の利得を設定し、1ヶ月後(一日8時間使用)の目標利得を2つの選択肢から選んで設定しますが、1つは利得上昇幅が大きいので、使用出来るのは実質1つのみ。
利得を細かく設定出来ませんが、ほぼ問題ない利得上昇幅になっています。
④フォナック(自動順応マネージャー)
最初の利得を設定し、30日後(一日12時間使用)の利得の選択肢はいくつかありますが、最低の利得上昇幅を選択しても4~5dB上がるので、1ヶ月で設定するのは難しいと思われます。
期間を60~70日に設定しておき、1ヶ月後に設定し直すかOFFにするような方法が必要。
⑤オーティコン(自動アダプテーションマネージャー)
最初の利得を設定し、1ヶ月後(一日10時間使用)の利得の選択肢はいくつかあります。
目標利得のカスタマイズは出来ませんが、最低の利得上昇幅を選択すれば2dB程度の幅になっていますので、これを選択すれば問題ないと思われます。
最初の利得を設定した後、4週間後(一日8時間使用)の目標利得をカスタマイズ出来ますので、どのようにでも設定可能です。
期間は4週間後だけではなく多くの選択肢があります。
結果的に、シグニアとリサウンドの2メーカーは、自由に設定することが可能なので使いやすい。
ワイデックス・スターキー・オーティコンの3メーカーは、最適な設定を選択すれば問題なく使用出来そうです。フォナックは設定するのに少し注意が必要ということになります。
自動ボリュームアップ機能Ⅰ
初めて補聴器を装用される方に対しての補聴器の設定で、普通の会話がよく聞こえるように利得(ボリューム)を上げてしまうとうるさ過ぎて補聴器を使用できないことがしばしばあります。
初装の方ですので、補聴器が上手く使用出来ているかの確認などもあり、最初の2~3ヶ月は1~2週間に1度は来店していただき、問題なく使用出来ているか、実際に使ってみての疑問点はないかなどお話しを伺うと共に、聞こえ方の微調整を行います。
音質的な調整も行いますが、最初は小さめに設定しておいた利得を、徐々に上げていくという調整も行います。
その、徐々に利得を上げていくという調整のみであれば、どのメーカーの補聴器でも自動に行える機能を備えています。
ただ使い勝手が良いのもあればそうでないのも…。
機能としては数ヶ月の間に徐々に数dB利得が上がるようにも出来ますが、初めて補聴器を使う方用ですから、数ヶ月も来店していただかないというのは通常はないと思いますので、4週間(1ヶ月)の期間で利得を2dB程度上げることを想定してみます。
①シグニア(自動ボリュームアップ)
最初の利得を設定し、4週間後(一日8時間使用)の目標利得で周波数ごとに何dB上げるかを設定するか、4週間後の目標利得を設定し、現在の聞こえはそこから何dB下げた状態に設定するかカスタマイズ出来ますが、後者はやや設定が難しく前者であれば使いやすいと思います。
②ワイデックス(順応)
最初の利得を設定し、4週間後(一日12時間使用)の利得を3つの中から選択出来ますが、選択肢の内の2つは上がる利得が大きすぎるため、実際に使用出来るのは1つのみになってしまいます。
利得のカスタマイズが出来ないのは残念ですが、最良の1つの選択肢の利得設定は、ほとんど問題のない利得上昇だと思います。
周波数変換
周波数変換は、高周波数域の認知機能が低下した方に、高周波数の音をそれより低い周波数の音に変換し、聞き取ってもらおうとする機能です。
変換の方法は大きく分けると二つの方法があり、一つは周波数圧縮、もう一つは周波数移行です。
「リサウンド」「フォナック」シグニア」が圧縮、「オーティコン」「スターキー」「ワイデックス」は移行の方法を導入しています。
聞こえない音が聞こえるようになるので、喜んで使用される難聴者もいらっしゃいますし、音質が気に入らず使いたくないという方も。
先日、あるお客様の補聴器の調整を行いました。他店で購入された補聴器で、私が調整するのは初めて。
訴えは、最近職場の環境が変わり非常に気になる音が周りにあり、同僚の聴者はそれほど気にしていないが、自分にとってはとても気になるのでなんとかしてほしいとのこと。
その音をスマホに録音してお持ちになりました。
高域の電子音のやや大きな音でしたが、利得をどのように変更しても改善しませんでした。(もちろん、大きく利得を下げれば不快音は解消するでしょうが、そこまで利得を下げることはできません。)
周波数変換(移行)が最強に設定されていたので、周波数変換の利得を下げてみましたがあまり効果は…。
ところが、それをオフにしてみると途端に効果を感じてもらえました。
その方に周波数変換について聞いてみると、それについての説明は聞いたことがないようで、購入した店舗のフィッターが、高域の聞こえが低下しているお客様に対して、良かれと思って難しい話はせずに設定していたようです。
周波数変換機能をオフにしたのは数日前で、オフにして実生活で問題がないのかどうか、答えはまだ出ているわけではありませんので、また報告させていただきますね。